
又例の寄鍋にてもいたすべし 高浜虚子
「いつもの寄鍋にしよう」を少し畏まって表現した一句。「又例の」というさりげない導きが味わい深い。夕食を何にするか、あれこれとみなの意見がさだまらないときの落着きどころが「又例の寄鍋」なのだろう。「いたすべし」は「した方がいいだろう」という軽い命令形、虚子の威厳がのぞいている。(松)
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一句を読み解く129

うさぎほどの温もり膝に毛糸編む 西村和子
少しづつ編みあがってゆくのはセーターであろうか。編んでいるものを膝にのせているのだ。それがうさぎの温もりのようだという。毛糸のもつ温もりをうさぎの体温にたとえた直喩の俳句である。(松)
一句を読み解く128

出遊びの好きな一羽の寒卵 宇佐美魚目
寒卵を一羽二羽と数えているようにも解釈できるが、「出遊びの好きな一羽」は卵を産み落とした雌鳥のことであろう。卵を産んでそれを温めるわけでもなく、あちらこちらと動き回っている。子供をほったらかしにして遊びまわっているのは、何も人間だけではないということか。(松)
一句を読み解く127

夕ぐれておのが紙漉く音とゐる 長谷川素逝
「紙漉き」は一年を通しての仕事、にもかかわらず、「紙漉」が冬の季語とされるのは、「紙漉」の仕事の厳しさが冬に顕著に現れるからであろう。
素逝の句、日暮れとともに外に音がなくなり、気づいてみると手元の水音だけが妙にはっきりと聞こえている、というところか。「紙漉」の音は「水音」、その水の冷たさを感じさせる一句である。(松)
一句を読み解く126

もの言はぬひと日昏れたる障子かな 鈴木真砂女
日が暮れたのだ。どんな一日であったかといえば、誰ともしゃべらない一日ということ。なんとなく句に勢いが感じられないのは、「昏れたる」の「たる」のはたらきだろうか。「たる」をとると「もの言はぬひと日が昏れて白障子」くらいになるのかもしれない。句に勢いがないことで、なるほど疲労感のようなものが伝わってくる。障子に孤独の影が差し込むような一句である。(松)
一句を読み解く126

大空にのび傾ける冬木かな 高浜虚子
季語における「冬木立」が林立する樹木をさすのに対し、「冬木」は一本の大木のイメージが強い。虚子の句もまたそのような冬木を詠んでいる。「大空にのび傾ける」は写生の典型、単純な描写ゆえに力強い冬木が描かれた。(松)
一句を読み解く124

誰が妻とならむとすらむ春着の子 日野草城
助動詞「む」がふたつはいった珍しい形の俳句である。最初の「む」も次の「む」も推量を表す。誰の妻になろうとするのだろうか、という意であるが、「誰が妻にならむとするや春着の子」でもよさそう。「む」が二つ入ったことで、なんとなくもたもたした俳句になっている。(松)
一句を読み解く124

一軒家より色が出て春着の子 阿波野青畝
一軒家より出た色=(イコール)春着の子、という俳句である。中七まで読み下して何のことか、ということになる。答えを提示するように、「春着の子」が座五におかれる。手品の種が明かされるような俳句でもある。(松)
一句を読み解く123
一句を読み解く122

川に来て山見るが好き去年今年 飴山實
大晦日から元旦に移り変わる時間の経過が「去年今年」。虚子は「去年今年貫く棒の如きもの」と詠んで、この時間の経過に太く固い芯を通して見せた。
掲句は、虚子が詠んだ時間の経過よりも、はるかに大きな流れの去年今年を詠んでいる。おっとりと構える飴山俳句らしい去年今年である。(松)

