一句を読み解く12

蕗味噌や音に近づく山の雨 森澄雄
上五を「や」で切って、下五を体言で終わる俳句の古格ともいえる形である。「音に近づく」は雨が少しづつ強くなって音をたてはじめたということだろう。「蕗味噌」と「山の雨」を取り合わせているが、この取り合わせは同じ空間に存在するもの同士の取り合わせである。
春の日や庭に雀の砂あびて 鬼貫
名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉
菜の花や月は東に日は西に 蕪村
麦秋や子を負ひながらいわし売 一茶
陽炎や縁からころり寝ぼけ猫 一茶
陽炎や鍬捨てゝ置く畠中 成美
涼しさや行燈消えて水の音 正岡子規
鶯や枯木の中の一軒家 正岡子規
秋灯や夫婦互に無き如く 高濱虚子
流燈や一つにはかにさかのぼる 飯田蛇笏
早乙女や笠をそびらに小買物 吉岡禅寺洞
初場所やかの伊之助の白き髭 久保田万太郎
葛餅や山影たたむ茶屋の前 吉田冬葉
塗畦や外より家の内冷えて 宇佐美魚目
白玉や甍に風の吹き渡り 大木あまり
白梅や仏を入るゝ経の声 飴山實
白梅や湯であたためて臼と杵 渡辺文雄
すき焼や浄瑠璃をみて泣いてきて 長谷川櫂
うららかや干し網に犬眠りゐて 古内静子
繭玉や白ひといろの美しく 岩井善子
一方、同じ取り合わせの句でも以下の例は、空間・次元を別にするもの同士の組み合わせ、句を作るうえでどちらが難しいかはいうまでもない。(kinuta)
菊の香や奈良には古き仏達 芭蕉
春立や愚の上に又愚にかへる 一茶
行春や畳んで古き恋衣 高濱虚子
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎
餅焼くやはるかな時がかへり来ぬ 加藤楸邨
羅や人悲します恋をして 鈴木真砂女
豆飯や彗星世紀の彼方へと 川崎展宏
ハンカチや人の噂に遠くゐて 大橋敦子
蕗味噌やうかと過ごせし二七日 渡辺文雄
白玉や子煩悩にはなりきれず 西村和子
風花や一生かけて守る人 長谷川櫂
湯豆腐や飾り気のなき人が好き 河村蓉子
夏帯やゆふべの夢の母若く 岩井善子
白玉や夢の中でも惚れやすく 北側松太
