一句を読み解く10
雪解けや湯釜のやうな信濃川 本宮哲郎
直喩の俳句である。直喩には「何々のごとし」「何々のようだ」「何々に似る」などがあり、俳句では頻繁に使われる表現方法の一つである。句は、湯気を上げている信濃川を「湯釜」にたとえている。少し大げさにたとえてみることで対象をよりくっきりと描写した一句。表現方法が直線的なのでわかりやすいが、その反面陳腐になりやすいともいわれる。(kinuta)
【例句】
| 老眼に炎天濁りあるごとし | 高浜虚子 |
| 大空へ呼ばれしやうに草の絮 | 佐藤美恵子 |
| 天上に風あるごとし竹の春 | 佐藤和夫 |
| 炎昼やするめのごとく部屋にゐる | 山田真砂年 |
| はるの雪産着のやうに田の真昼 | 小宅容義 |
| 炎天や蜥蜴のごとき息づかひ | 小島千架子 |
| 卯の花腐し追るゝごとく旅に出づ | 小林康治 |
| 白昼や地獄のごとく毛蟲焼く | 小林康治 |
| 風花の聞きしごとくに日もすがら | 上村占魚 |
| 梨もぐや山雨つばさのごとく去る | 大橋櫻坡子 |
| 冬雁に水を打つたるごとき夜空 | 大野林火 |
| 凧一つ貌のごときが冬空に | 中村苑子 |
| 降るやうな星空村は寒に入る | 長谷川素逝 |
| 蚊柱に夕空水のごときかな | 日野草城 |
| 炎天を槍のごとくに涼気すぐ | 飯田蛇笏 |
| わが胸に旗鳴るごとし冬青空 | 野澤節子 |
| 御命講や油のやうな酒五升 | 芭蕉 |
| 夏山の洗うたやうな日の出哉 | 一茶 |
| 天の川礁のごとく妻子ねて | 飴山實 |
| 手にのせて火だねのごとし一位の実 | 飴山實 |
| 家にゐて旅のごとしや秋の暮 | 長谷川櫂 |
| 包丁や氷のごとく俎に | 長谷川櫂 |
| すこやかな泥大根のごとき句を | 長谷川櫂 |
| 白鳥の花のやうなる浮寝かな | 長谷川櫂 |
| 里芋のやうな御仁でありしかな | 葛西美津子 |
| 追羽子は花のごとしや雪に落ち | 岩井善子 |
| 雲はこぶごとく抱へて干ふとん | 岩井善子 |
| 薄氷やパズルのごとく砕けをり | 高橋慧 |
| 青田道砥のごとく濡れゐたりけり | 清水芳朗 |
| 炉辺にゐてこの世の外にあるごとし | 清水芳朗 |
| 桃の花をのこのやうに育てし子 | 渡辺文雄 |
| 硯彫る冬日を刻みゐるごとく | 北側松太 |
| 江の島をさらふがごとし秋の風 | 北側松太 |
