類なき母の力や草の餅 長谷川櫂

茹でた蓬の若葉を餅に搗きこんでできるのが草餅。芳香と深い緑色がいかにも春を感じさせてくれる。餅は日本人の力の源であり、祝いの日の食べ物でもある。ここに詠まれた草餅も晴れがましい日のものだろう。類なき母の力とは、子どもに対するゆるぎない愛に他ならない。この草餅には、その愛がたっぷりと込められている。(松)
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今日の季語_草餅
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蓬餅、草の餅、母子餅、草団子
【解説】
蓬の新芽を搗き込んで作る餅のこと。餡や黄粉などで食する。かぐわしい餅である。
【分類】
仲春・生活
【例句】
| 青ざしや草餅の穂に出でつらん | 芭蕉 |
| 両の手に桃とさくらや草の餅 | 芭蕉 |
| 鶯の来て染つらん草の餅 | 嵐雪 |
| 草餅にあられを煎るやほろほろと | 嵐雪 |
| 草餅に我苔衣うつかれし | 蕪村 |
| 春の野のものとて焼や草の餅 | 也有 |
| たち屑も女なりけり草の餅 | 蓼太 |
| 下草の桃にはなれず蓬もち | 蓼太 |
| 匂はしや誰しめし野のよもぎ餅 | 白雄 |
| ふやふやの餅につかるゝ草葉哉 | 一茶 |
| おらが世やそこらの草も餅になる | 一茶 |
| 旅人や馬から落す草の餅 | 正岡子規 |
| 大仏に草餅あげて戻りけり | 正岡子規 |
| 桜餅草餅春も半かな | 正岡子規 |
| 故郷や母がいまさば蓬餅 | 正岡子規 |
| 雛様をなぐさめ顔の蓬餅 | 正岡子規 |
| 草餅の黄粉落せし胸のへん | 高浜虚子 |
| 草餅の香りは婆が自慢かな | 幸田露伴 |
| 草餅に憩うて淋し一人旅 | 高橋淡路女 |
| 草餅のま青く指に憑きにけり | 柴田白葉女 |
| 草餅の真青く指に憑きにけり | 柴田白葉女 |
| 帰省子に朝一臼の蓬餅 | 松村蒼石 |
| 蓬餅なつかしきものみなほとけ | 松村蒼石 |
| ふるさとや粗にして甘き草の餅 | 上村占魚 |
| 草餅や鴉をわらふあづま歌 | 水原秋櫻子 |
| 草餅の少し固くて柔らかし | 高野素十 |
| 助六のうはさあれこれ草の餅 | 久保田万太郎 |
| 草の餅似而非万葉を憎みけり | 久保田万太郎 |
| 子をおもふ憶良の歌や蓬餅 | 竹下しづの女 |
| 御仏や慈眼みそなはす草の餅 | 尾崎迷堂 |
| 影ゆれて花いちもんめ草の餅 | 佐藤鬼房 |
| 草餅を頬ばりし時目が会ひぬ | 星野立子 |
| 草餅の濃きも淡きも母つくる | 山口青邨 |
| 草餅や野川にながす袂草 | 芝不器男 |
| 草餅を子と食ひ弱くなりしかな | 石田波郷 |
| 草餅に焼印もがな草の庵 | 村上鬼城 |
| 白粉のはげし稚児かな草の餅 | 大谷句佛 |
| 虚子死して草餅のかぐはしあをし | 秋元不死男 |
| 草餅や太古の巌を撫でと来て | 西東三鬼 |
| 草の餅日向に人のかき消えて | 野澤節子 |
| 草餅の黄な粉をこぼす毛越寺 | 細見綾子 |
| 草餅や故郷出し友の噂もなし | 寺山修司 |
| 草餅を配りに雪を踏んで来し | 飴山實 |
| 鄙ながら陶の目利きに草の餅 | 飴山實 |
| 草餅やもとより急ぐ旅ならず | 角川春樹 |
| 咲く花を見下しの土間蓬餅 | 草間時彦 |
| 庭先へ廻りて一つ草の餅 | 草間時彦 |
| 草餅や板間二枚の置き畳 | 友岡子郷 |
| 三炉ある一つに草の餅を焼く | 友岡子郷 |
| 草餅を焼く天平の色に焼く | 有馬朗人 |
| 蓬餅母といふもの妻にはなし | 安住敦 |
| 草餅や海へ落ちこむ伊良古崎 | 宇佐美魚目 |
| 男助山見えて一寺や蓬餅 | 斉藤夏風 |
| 山からの雨の味して蓬餅 | 伊藤通明 |
| ふるさとの海は鳴る海蓬餅 | 藤田湘子 |
| 草餅の色濃きを食み雨ごもり | 岡本眸 |
| 紙箱のこころもとなし蓬餅 | 長谷川櫂 |
| 俳諧の腰強うせよ草の餅 | 長谷川櫂 |
| 夕空の鬼駆けりくる草の餅 | 長谷川櫂 |
| 邪気払ふ洗朱の箸草の餅 | 長谷川櫂 |
| 類なき母の力や草の餅 | 長谷川櫂 |
| 草餅に河波の遍路の道なかば | 山本洋子 |
| 伊勢道の拳のやうな蓬餅 | 大石悦子 |
| 草餅に鶯餅の粉がつく | 岸本尚毅 |
