方丈の軒をこぼれてさへづれり 長谷川櫂

「方丈」の「方」は四角形の部屋を意味し「丈」はその長さ(約1.7メートル)を表す。したがって、方丈は1.7メートル四方の部屋あるいは建物ということになる。禅宗ではそこで住職が寝起きしたことから、方丈は住職の呼称にもなっている。句の「方丈の軒」、良寛が棲んだ五合庵のようなところであろうか。「こぼれる」はありあまって器からあふれ出ること。小鳥がこぼれ囀がこぼれ、そして春の光がこぼれる楽しい「方丈の軒」である。(松)
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今日の季語_囀
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囀る、鳥囀る
【関連季語】
鳥交る
【解説】
春、繁殖のため雄が雌を呼ぶために鳴く、これが囀。鳥の鳴声は四季を通して聞くことができるが、「囀」は鳥の恋なのである。
【分類】
三春・動物
【例句】
| 囀りに鳥は出はてて残る雪 | 北枝 |
| 囀もかへりがけなる小鳥かな | 浪化 |
| 囀るや蔵も障子も木々の影 | 淡々 |
| 囀や籠からも雲をさし覗き | 蝶夢 |
| 泥の裾かヽげ歩くに囀れり | 古泉 |
| 囀りをこぼさじと抱く大樹かな | 星野立子 |
| 囀りても囀りても憂し籠の鳥 | 阿部みどり女 |
| 囀も在所ことばか渡岸寺 | 飴山實 |
| 群青といふ名の囀りを聞いてゐし | 安東次男 |
| 囀やあかあかと積む松の薪 | 宇佐美魚目 |
| さへづりのすとんとやめば波の音 | 夏井いつき |
| 囀やあはれなるほど喉ふくれ | 原石鼎 |
| 囀のちゆんと応へてをりにけり | 後藤夜半 |
| 囀の高まり終り静まりぬ | 高濱虚子 |
| 囀りや母となりたる妻ねむる | 山崎ひさを |
| 囀りの木の天辺のかがやける | 山西雅子 |
| 囀の一羽なれどもよくひびき | 深見けん二 |
| 囀を浴びをり人を愛したし | 成瀬桜桃子 |
| 囀や幾つ転べる木の輪切 | 西山泊雲 |
| 囀に色あらば今瑠璃色に | 西村和子 |
| 囀や耳の奥には水の国 | 斉藤夏風 |
| さへづりのだんだん吾を容れにけり | 石田郷子 |
| 囀やアパートをいつ棲み捨てむ | 石田波郷 |
| 囀の甘えたりしが後と静か | 川端茅舎 |
| 紺青の乗鞍の上に囀れり | 前田普羅 |
| 一日の雨の切れ目を囀れり | 太田土男 |
| 森うしろ染めて暮るるに囀れる | 大須賀乙字 |
| さへづりや一刀痕のふかぶかと | 大木あまり |
| 囀りやをとこをみなも湯のけぶり | 瀧春一 |
| 囀の左移りや右移り | 中村汀女 |
| 囀りのしばらく前後なかりけり | 中村汀女 |
| いづこよりつどひはげしく囀れる | 中田剛 |
| 方丈の軒をこぼれてさへづれり | 長谷川櫂 |
| 囀やピアノの上の薄埃 | 島村元 |
| 囀りを聴く切株の自由席 | 本宮鼎三 |
| 囀のこぼれて水にうつりけり | 鈴木花蓑 |
| 大空の囀を追ひ囀れり | 岩井善子 |
| 囀や靴の中より小石出て | 藺草慶子 |
