季語散策25 新蕎麦
獲れたばかりの蕎麦ということではない。蕎麦の実が熟すより一か月ほど早く刈り取った蕎麦が「新蕎麦」の本来の意味である。熟す前のやや青くさい蕎麦の風味が気の早い江戸っ子に好まれた。初物好きの江戸っ子の季語なのである。最近では、今年取れた蕎麦という意味で使われることが多い。
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新蕎麦の太々としてぶつきら棒 川崎展宏
ぶっきら棒とは言動に愛嬌のないこと、と辞書にある。では、ぶっきら棒でない蕎麦とはと問われると返答に困るが、この蕎麦いかにも美味しそうではないか。
五箇山の水に晒せる走り蕎麦 佐藤美恵子
五箇山で育ち収穫した蕎麦を、この山の水で打ち、山から引いた水にくぐらせた新蕎麦。もうそれだけで十分美味しいに違いない。
新そばをさも清らかに打つことよ 長谷川櫂
鮨屋の白木のカウンターと、蕎麦を打つあの広い板はいつ見ても気持が良い。
六十里越の一里の走り蕎麦 橋本榮治
新潟県魚沼市と福島県南会津郡只見町との間は雪が深く、蕎麦の栽培の盛んなところ。六十里、一里、走りと軽やかなリズムが面白い。