季語散策16 桃

桃の木になる実のことです。甘い果肉には水分が多く、香りにも甘さがあります。お盆の精霊棚に供えられたりします。「桃の花」は春の季語になります。
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葉がくれに水蜜桃の臙脂かな 飯田蛇笏
緑濃い葉からのぞく桃の実は色がつき始めると果実とは思えぬほど美しい。その葉も実もどこか東洋的で、まさに唐の国の美人の面影。「臙脂」が揺るぎない。
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桃啜り覗けたる胸見られしや 石田波郷
果物としての桃はなかなか扱いにくい。まん中の大きな種が邪魔で、人様にお出しする時はどうにも手をやく。結局、おしぼりを片手に丸かじりするのが一番。何度も胸の手術を受けた波郷ならではの句。
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白桃を洗ふ誕生の子のごとく 大野林火
桃は手の触れたところからすぐ傷みだす。今でも店先に並ぶときはふわふわの発泡スチロールの網に包まれ、林檎や蜜柑のように笊に山盛りされるようなことはない。洗う時も生まれたての子を扱うように大切に扱われる。
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桃冷す水しろがねにうごきけり 百合山羽公
その表面がベルベットようのように毛羽立った桃。水に入れると水をはじき小さな気泡が沢山できる。ゆらりと水に揺れて沈む桃が静かに冷されていく。
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中年や遠くみのれる夜の桃 西東三鬼
そこはかとない叙情性とエロチズム。葉かげに実った桃には乙女の恥らう風情が感じられる。
(立)
