一句を読み解く35
鑿を研ぐひそかな音をかきつばた 飴山實
芭蕉は、「四十八文字いろは皆切字なり、用ゐざる時は一字も切字なし」と述べて、使い方次第ですべての文字が切字になると説いている。
掲出の句、中七を「ひそかな音や」と「や」で切れば普通であるが、「ひそかな音を」と「を」を切字に用いている。切字「や」は感動のありようをはっきりさせるが、この句の「を」は感動をぼかして句に余韻を与えている。「ひそかな音」が「かきつばた」に働きかけているのである。「ひそかな音をまとひかきつばた」「ひそかな音をいただきかきつばた」「ひそかな音を近くにかきつばた」などなど、助詞「を」によって「ひそかな音と」「かきつばた」がしっとりと調和している。
切字に「を」を用いることで強さが緩和され、穏やかな一句になっている。(kinuta)