今日の季語_行く春
【一句鑑賞】
行く春を近江の人と惜しみける 芭蕉
去来は、去来抄の中でこの句に触れ、「湖水朦朧(もうろう)として春をおしむに便(たより)あるべし。」といっている。近江の春は琵琶湖の湖水が朦朧として、春を惜しむのにとりわけ趣がある、という。
春を惜しむのに「近江の人」もさることながら、近江という土地に深い意味があったということになる。船頭を雇っての一日だったのかもしれない。
*
春の名残、春のかたみ、春の行方、春の別れ、春の限り、春の果、春の湊、春の泊、春ぞ隔てる、春行く、春尽く、春尽、徂春、春を送る
【関連季語】
春惜しむ、春の暮
【解説】
春が過ぎ去るころをいう。「春惜しむ」というと季語があるように、「行く春」には愛惜の念がただよう。
【分類】
晩春・時候
【例句】
行はるや鳥啼うをの目は泪 | 芭蕉 |
行春にわかの浦にて追付きたり | 芭蕉 |
とゝ川の春やくれ行葭の中 | 丈草 |
行く春に追ひぬかれたる旅寝かな | 丈草 |
まだ長ふなる日に春の限りかな | 蕪村 |
ゆく春やおもたき琵琶の抱ごゝろ | 蕪村 |
きのふ暮けふ又くれて行く春や | 蕪村 |
ゆく春のとどまる処遅ざくら | 召波 |
門口に風呂たく春のとまりかな | 几董 |
行く春や一声青きすだれうり | 蓼太 |
空に減る春の名残や風巾 | 也有 |
鐘鳴りて春行くかたや海の色 | 素丸 |
悠然と春行くみづやすみだ川 | 蝶夢 |
ゆく春や鄙の空なるいかのぼり | 白雄 |
行春やつひに根付し坂の松 | 暁台 |
あさあさは寒し春ゆく萩の門 | 成美 |
鼠なく雨夜を春の別れかな | 成美 |
ゆさゆさと春が行くぞよ野べの草 | 一茶 |
やよ虱這へ這へ春の行方へ | 一茶 |
行春やどれが先立つ草の露 | 一茶 |
ゆく春やいつ眼をさます小田の鷺 | 梅室 |
行春やおくれていそぐ蝶一つ | 吟江 |
行く春やほうほうとして蓬原 | 正岡子規 |
旅せんと思ひし春も暮にけり | 高浜虚子 |
行春や至ところに遅櫻 | 高浜虚子 |
ゆく春や僧に鳥鳴く雲の中 | 飯田蛇笏 |
行春や墓そここゝに桶狭間 | 貝城 |
行春やうしろ向けても京人形 | 渡辺水巴 |
行春や版木にのこる手毬歌 | 室緒犀星 |
行春や浮葉ひとつに日のひかり | 水原秋櫻子 |
行春のこころ実生の松にあり | 後藤夜半 |
行春や身に倖の割烹着 | 鈴木真砂女 |
逝く春や粥に養ふ身のほそり | 中川宗淵 |
春逝くと冷き厚き苜蓿 | 石田波郷 |
去りゆきし春を火種のごと思ふ | 藤田湘子 |
行く春や心の中の蓑一つ | 長谷川櫂 |