食べもの歳時記1 煮菜
結婚したてのころ、彼の友人が「もうこっち(新潟)にはなれましたか、これは実家のニナです」といってお土産にもってきてくれたのが、ニナとの始めての出会いであった。
タッパからは強烈な匂いが漂っている。まだ少し温度が残っているので、なおのこと匂う。腐った菜っ葉の煮物といっては失礼だが、それが一番の印象だ。
ニナは新潟の郷土食で、冬場の青菜の代わりとなるもの。作り方は塩漬けの菜(野沢菜、たい菜など)の塩を出して、人参、大根、里芋、うち豆、家によっては油揚げなどと一緒に油でいため、水からことことと煮てゆく。多くの家庭はストーブや一昔前なら、囲炉裏にでも掛けておいたのだろう。だしは煮干をそのまま使う。雪深い地方の栄養的にも考えられた料理だ。味は味噌で付けるが、頂いたニナが自家製の3年味噌とくれば醗酵食品の二重奏だ。菜も少し醗酵したくらいのほうが、ぐっと美味しく仕上がる。
糠漬けは糠の醗酵を待って漬けるものだが、白菜でも沢庵でも醗酵が進みちょっと酸味が加わった方が美味しい。そもそも鮒鮓、納豆、くさやなど醗酵食品にはなれないと食べにくいものが多い。しかし慣れると、これがまた人を引き付けてやまない。チーズもヨーグルトとも様々な条件がそろい偶然によって出来たものではないか。世界を旅した人が教えてくれた。醗酵食品は頭で食べるのものです。風土と環境が作り上げた食べ物こそ、その土地の食の文化を頂くことなのだろう。
煮菜(ニナ)をおいしく思うようになったのは、そのにおいの強いものを頂いてから一年以上もたってからのことである。
この煮菜こそ家庭の味、同じ新潟県でも各地方によって味に違いがある。最も大きな違いは酒かすを入れるか入れないかだろう。これで随分と味がちがってくる。味付けは味噌、出汁は煮干二つに割ってはらわたを取り使う。このあたりはどこも共通と思う。我が家では大根、人参、里芋、大豆(本来はうち豆だが、煮崩れるのでつぶさない)これらを油でいため、水から煮る。目安として大根が柔らかくなったら、塩出しした菜を加え後はストーブにおまかせ。半日もすると鍋一杯の菜がぐっと減り、ぱったりと煮あがる。(立)