おいしそうな秋の十句③
日々水に映りていろのきたる柿 宇佐美魚目
柿には青空が良く似合う。灯しのように時雨のなか枝に残った柿も風情があるが、食欲をそそるのはからりとした青空にある柿だろう。空は水に映り、水は青々と空を映す、青一色となった世界のなか柿はぐんぐんと色付く。
よろよろと棹がのぼりて柿挾む 高浜虚子
しみじみと日を吸ふ柿の静かな 前田普羅
丸くして四角なるもの富有柿 長谷川櫂
ほつこりとはぜてめでたしふかし芋 富安風生
焼芋は焼くことによって水分が蒸発しほっくりと仕上がるが、ふかし芋はよほど芋を吟味しないとこのようにはならない。「めでたし」が芋のうまさを十分に引き出している。
今生のいまが倖せ衣被 鈴木真砂女
ほやほやのほとけの母にふかし藷 西嶋あさ子
太陽を一つに纏め芋の露 深沢暁子
梨むくや甘き雫の刃を垂るゝ 正岡子規
難しい解釈など無用。これぞ梨。
小刀の刃に流るるや梨の水 毛条
ともに居て梨剥けば足る恋ごゝろ 日野草城
道元のつむりに似たる梨一つ 長谷川櫂
星空ヘ店より林檎あふれをり 橋本多佳子
林檎は、聖書に童話にとよく登場する。この林檎、店先の明りを受けてまぶしいほどだ。空には星が輝き、店先には赤々とした林檎が並べられている。絵本のなかのくだもの屋さんのようだ。その味はどんなだろう。
歯にあてて雪の香ふかき林檎かな 渡辺水巴
りんご食みいちづなる身をいとほしむ 桂信子
林檎投ぐ男の中の少年ヘ 正木ゆう子
(立)