一句を読み解く 145

海女とても陸こそよけれ桃の花 高浜虚子
「こそ」「けれ」の係り結びの俳句である。「陸(くが)」を強く印象付けようという係り結び、海女が桃の咲くかたわらを歩いているようにもとれるが、注釈に「外海に海女の作業を見る。」とあるから、海女のいるところは海の中か舟の上ということになる。虚子も舟の中で見ているとすれば、季語の「桃の花」は推敲の過程で選ばれたものかもしれない。(松)
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今日の季語_桃の花
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白桃、緋桃、源平桃、桃畑、桃林、桃園、桃見、桃の村、桃の宿
【関連季語】
桃
【解説】
桃は、桜に少し遅れて淡紅色の花を咲かせる。実を収穫するための花であり、その華やかさとは別に、生活に根ざしている花ということができる。
【分類】
晩春・植物
【例句】
| 煩へば餅をも喰はず桃の花 | 芭蕉 |
| 船足も休む時あり浜の桃 | 芭蕉 |
| 桜より桃にしたしき小家かな | 蕪村 |
| 喰うて寝て牛にならばや桃の花 | 蕪村 |
| 商人(あきんど)を吼る犬ありもゝの花 | 蕪村 |
| 家中衆にさむしろ振ふもゝの宿 | 蕪村 |
| 桃の木へ雀吐き出す鬼瓦 | 鬼貫 |
| 鯛を切る鈍き刃ものや桃の宿 | 几董 |
| 戸の開てあれど留守なり桃の宿 | 千代女 |
| 桃咲くやおくれ年始のとまり客 | 一茶 |
| 不相応の娘もちけり桃の花 | 一茶 |
| 海女とても陸こそよけれ桃の花 | 高浜虚子 |
| 荷車に娘載せけり桃の花 | 正岡子規 |
| 桃の花をのこのやうに育てし子 | 渡辺文雄 |
| 一ト畑は嫗のほまち桃の花 | 飴山實 |
| 潺々と水来て去りぬ桃の花 | 飴山實 |
| 膝で折り魚龍にさし込む桃の花 | 飴山實 |
| 桶の水ぴんと張られて桃の花 | 伊藤敬子 |
| 傷舐めて母は全能桃の花 | 茨木和生 |
| 桃咲くやいまだに流行る漢方医 | 夏目漱石 |
| 硝子戸の奥に母ゐる桃の花 | 鎌倉佐弓 |
| ふだん着でふだんの心桃の花 | 細見綾子 |
| まいにちを少し寝不足桃の花 | 細川加賀 |
| ひとつ知りひとつ忘れて桃の花 | 山本しほ |
| もの言うて歯が美しや桃の花 | 森澄雄 |
| まつさきに開きたる窓桃の花 | 仙田洋子 |
| 桃咲いて五右衛門風呂の湯気濛々 | 川崎展宏 |
| 点滴注射明日より減るよ桃の花 | 相馬遷子 |
| 嘗て住み今旅人よ桃の花 | 太田土男 |
| 土砂降りとなりたる国栖の緋桃かな | 大峯あきら |
| 両眼なき達磨のゆとり桃の花 | 大木あまり |
| 交りは母系に厚し桃の花 | 中戸川朝人 |
| 五百年前は戦国桃の花 | 野木藤子 |
| おむすびの芯つめたくて桃の花 | 中田剛 |
| きのふけふ歩いて桃の花ざかり | 長谷川双魚 |
| 遊びゐるうちに日が暮れ桃の花 | 長谷川櫂 |
| 山碧し花桃風を染むばかり | 飯田龍太 |
| 桃の花菜の花挿せば唱ひだす | 野澤節子 |
| アルプスの濡れ身かがやく桃の花 | 矢島渚男 |
| 長き枝のすぐに盛りや桃の花 | 藺草慶子 |
| 保険屋が来て死の話桃の花 | 北側松太 |
| くちなはは小屋に逃げこみ桃の花 | 岩井善子 |
