蜩や硯の奥の青山河 加藤楸邨
暗喩の句である。短い文芸ゆえに、意味不明な表現は命取りにもなりかねないのが俳句、「硯の奥の青山河」という表現ははたして大丈夫なのであろうか。
楸邨は蜩の声によって、硯に潜む青山河を感じ取った。「青山河」は硯石が掘り出されたところであり、「蜩」のものかなしい声が響き渡るところでもある。暗喩ではあるが、「蜩」「硯」「青山河」の三つの名詞がよく調和していて、暗喩と感じさせない不思議な和音を奏でている。意味不確かをひとまたぎして、心に響いてくる表現もあるのだ。『まぼろしの鹿』(kinuta)
