季語散策30 時雨

冬の初めの雨をいう。降ったかと思うと晴れ、晴れたかと思うとまた降りだす。短時間で目まぐるしく変わる天気である。寒々とした時雨であるが、芭蕉とその門弟たちによって、時雨は風情あるものとしてとらえなおされた。
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湯ぶねより一とくべたのむ時雨かな 川端茅舎
今と違いお風呂を薪でたいていた昔、お湯に入ってしまえばぬるくなったお湯を自分では熱くすることは出来ない。湯殿の窓を開けてちょっと薪を一本たしてもらう。季節と生活とが深く結びついていた時代のあたり前だが、生活感あふれる句。
水にまだあをぞらのこるしぐれかな 久保田万太郎
前線の影響で時雨の頃の空はあわただしく変化する。一方では青空がのぞき、もう一方では黒い雲が重なり合っている。日が照ったと思えばさっと降り出し、降ったかとおもえばもう日が差している。川か池か青い空を映した水が時雨の中に見える。
しぐるゝや煮物に入るゝ燗ざまし 鈴木真砂女
時雨の頃はそぞろ暖かいものが恋しい。ことことと惣菜をつくっているところか。夕べの燗ざましを調味料にしている。つつましいが、生活感と温度感があふれている。日々の生活を大切に送ってこそ出来る俳句ではないだろうか。
うつくしきあぎとあへり能登時雨 飴山實
「あぎと」は「あご」のこと。想像力を掻き立てられる句である。目や眉、口元などは美人を形容するのによく用いられるが、あごは余りないのではないだろうか。だが、不思議と美しいあごと言われると、顔の輪郭からほっそりとしたうなじ項見えてくるようだ。日本海側の厳しい風土に生きる寡黙で、聡明な女性の姿を連想される。
(立)
