七種粥
一月七日の人日の節句に、七草を羹(あつもの)にしたり粥や雑炊に炊き込んで食べると一年の邪気を祓うとされたのが七種粥の始まり。春の草の香気と精気が、邪気に打ち克つとされたのだろう。正月のご馳走を食べすぎて弱った胃腸にもやさしい食べ物である。
春の七草は、芹、薺(なずな)、御形(ごぎょう)、繁縷(はこべら)、仏の座、菘(すずな)、蘿蔔(すずしろ)をいう。前日の六日に野に出てそれを摘み、その夜俎にのせてはやして、翌七日にいただくもの。しかし、そんなもの正月の時分に野に出て摘もうと思っても野は冬ざれの真っ最中、芽を見つけることさえ無理な話である。どうしても七日に七種粥を食したいのなら、パックにされたものをスーパーでもとめるしかない。
その季節に採れないものを、昔の人はなぜ食せといったのか、矛盾も甚だしい言い伝えではないか、ということになるが、昔は正月の時分にそれらの草々が採れていたから話はややこしい。明治五年に、従来の太陰太陽暦を廃して太陽暦を採用すると、季節がひと月から場合によってはふた月ほども遅くなってしまったのだ。それまでのあたたかな正月から、一転、寒の内の正月になってしまった。こうして、わたしたちは、七草の採れない時分に、スーパーで温室栽培の七種を買わされ、一年の邪気をはらうことになる。温室育ちの香気と精気、なんだか邪気に見透かされそうな七種粥である。(m)