一句鑑賞_冬の生活 7

夢に舞ふ能美しや冬籠 松本たかし
太平洋側に生活するのと、雪に降り込められる日本海側とでは冬のとらえ方に大きな違いがある。雪国に生活すると冬籠りは実に実感の伴った季語だが、冬晴の続く太平洋側は寒いとはいえ、雪ほどに行動が制約されることはない。雪国の人が「東京には冬がないと」言うのもうなずける。とはいえ暖房の発達した現代と違い、炬燵や火鉢などの暖房器具で厳しい冬を越すのは、病弱な身にとっては大変な事だ。能役者の家に生まれながら、病身のため役者をあきらめざるを得なかったたかしにとって、能は手の届く所にありながら、手の届かないものであったに違いない。夢に見るではなく、夢に舞ふとおかれた上五に、たかしの能にたいする思いの深さが現れている。(立)
