作句あれこれ⑥ おいしそうに詠む
食べ物の俳句はおいしそうに詠む。これが大切です。俳句は自然讃歌、人間讃歌の文芸です。食べ物をおいしそうに詠むというのは、自然讃歌、人間讃歌に添う心ともいえます。「美しき緑走れり夏料理 星野立子 」などは、「おいしそうに詠む」の典型ともいえる一句です。「緑走れリ」という描写に「夏料理」を讃える思いが込められているのです。
どうすれば、おいしそうに詠めるのか。食べ物を讃える心を忘れない、これが一番です。「食べる」ということは、「おいしそう」というプラスの側面を持つ一方で、「まずそう」「だらしない食べ方」というマイナスの側面もときおり見せます。プラスの側面だけを詠めばいいのですが、人間はおかしなもので、わざわざマイナスの側面を詠んだりします。「惚けたる父に食べさす秋刀魚かな」「鮒鮨や鬱々と雨降りつづく」などはそのいい例でしょう。
では、おいしそうな句をいくつか。
火とともに運ばれて来し泥鰌鍋 岩井善子
火の勢いが、そのまま泥鰌鍋のおいしさです。
くみおきて水に木の香や心太 高田正子
食感が命の心太、木の香りが引き立てます。「木の芽和」のような香りを楽しむものなら「木の香」は料理を殺します。
梨むくや甘き雫の刃を垂るる 正岡子規
水分たつぷりの梨。
さくら餅うちかさなりてふくよかに 日野草城
「ふくよかに」がさくら餅のおいしさ。
伽羅蕗の滅法辛き御寺かな 川端茅舎
「滅法辛き」、この大げさな描写が伽羅蕗を引き立てます。
生きながら焼かるる蟹や松落葉 長谷川櫂
焼蟹の匂いが、松風に運ばれてくるようです。
(kinuta)