今日の季語_秋の風
春の風には開放感、夏の風には生命力、冬の風には荒寥感がイメージされるように、秋の風には蕭条とした思いが宿る。夏から冬に向う、言わば下り坂の季節が秋、吹く風もそこはかとなく寂しいのは当然のことである。
秋の風は、確かに、「寂しさ」がイメージされるが、季節の移ろいをもっと細かに見て行くと、初秋、仲秋、晩秋で、おのずとその性質も異なる。初秋に吹く風は、過酷な夏をすごしてきた体にほっと息をつかせる癒しの風であり、仲秋に吹く風は、からりと晴れ渡った空をわたる爽やかな風である。晩秋に吹く風は、朝寒、夜寒、そぞろ寒をもたらす冬を迎える風となる。
秋の風はそのように多様な面をもつが、涼やかな風、爽やかな風であっても、なんとなく寂しいというのが秋風の特徴、寂しい大人の女性のような季語なのである。
秋風の吹きわたりけり人の顔 鬼貫
あかあかと日は難面も秋の風 芭蕉
石山の石より白し秋の風 芭蕉
終宵秋風聞くやうらの山 曾良
秋風やしらきの弓に弦はらん 去来
十団子も小粒になりぬ秋の風 許六
蔓草や蔓の先なる秋の風 太祇
秋風や酒肆に詩うたふ漁者樵者 蕪村
子の皃に秋かぜ白し天瓜粉 召波
秋風の吹き来る方に帰るなり 前田普羅
秋風や模様のちがふ皿二つ 原石鼎