線路端に夏草が生い茂っている。そこに機関車が止ったという俳句である。注目すべきは「汽缶車の来て止る」ではなく「汽缶車の車輪来て止る」である。より細部に焦点を当てた表現が「車輪」の二文字、金属の「鉄」をより強く感じさせる表現である。(m)
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一句を読み解く158
一句を読み解く157

禅林に涼しき木々の立ち並ぶ 長谷川櫂
「瑞巌寺」と前書きがある。前書をとって「瑞巌寺涼しき木々の立ち並ぶ」でも句は成立しそうである。むしろ上五に切れが入って、きりっとした句になっているようでもある。
「瑞巌寺」ではなく「禅林に」と置いた作者のこだわりは、「禅」「林」という言葉の涼やかさであり、「ゼンリン」という涼やかな響きであろうか。「涼しき木々」ととらえたところが巧みである。(m)
一句を読み解く156

夕すずみよくぞ男に生まれける 其角
大方は脱ぎ捨てて裸同然なのかもしれない。いくら蒸し暑いからといっても、女はそういう風にはふるまえないということ。「よくぞ女に生まれける」ならば、どんな季語がつくのだろうか。(m)
一句を読み解く155

やはらかき母にぶつかる蚊帳の中 今井聖
「やはらかき母」は若い母である。したがってぶつかったのは幼い子供。遠い昔に思いをはせたのであろう。子供の頃の体験ながらも、どこかエロチシズムが感じられる一句である。(m)
一句を読み解く154

冷酒を吉野秀雄の墓にかける 石原八束
散文を意識した俳句である。韻文を尊重するなら「冷酒を吉野秀雄の墓にかけ」でよさそうなもの。「墓にかける」と六文字にしてしっかりと言い切ることで、句がぶっきらぼうな感じになっている。俳句は余韻が命といわれるが、それを逆手にとって、余韻を排除した一句である。(m)
一句を読み解く153

近づけば牛が顔寄す青嵐 本宮哲郎
「牛の顔」という存在感が「青嵐」という風格のある季語を支えている。天秤ばかりの上で「青嵐」と「牛の顔」がうまく釣り合っているような一句である。『鯰』(松)
一句を読み解く152

コントラバス白き腕を纏きて弾く 日野草城
無季の句と解してもいいが、「白き腕(かいな)」の一語から、半袖の女性がコントラバスを弾いていると察しがつく。夏の句とするのが妥当であろう。「白き腕を纏きて」に清廉な色香がただよう。(松)
一句を読み解く151

水打てば夏蝶そこに生れけり 高浜虚子
蝶がそこに羽化したというのではない。蝶がふとそこにあらわれたということ。「水打てば」の「ば」は、文法でいうなら、「順接」の「ば」である。「何々したから~こうなる」「何々すると~こうなる」という叙法である。順接は、句に因果関係を生じさせる。ゆえに、「水打てば涼しくなる」というような、発想では理屈に陥る。「蝶が生まれる」というような飛躍が大事なのである。(松)
一句を読み解く150

田を植ゑるしづかな音へ出でにけリ 中村草田男
「静かな音に出る」というのがこの句の要である。「静かな場所に出でにけり」なら普通の表現。「静かな音に」と視覚よりも聴覚を優先させたことで、静かさがより直接的に読み手に伝わる。(松)


