妹のこと⑤_亡骸
数年前、棚から誤って落ちた愛猫は即死状態だった。哀しくてバスタオルに包んで暫く抱いていた。抱き直そうと腕を動かした時、腕におしっこが伝った。腕の中の猫は段々に固くなり、今までとは何一つ変わっていない外観でありながら何か違う。強くそう感じさせるものがあった。それは、そのものを内面から形作っていた大切な何かが失せてしまった、縫いぐるみでもない、剥製でもない魂の去った愛猫の抜け殻と気がついた。
妹の死化粧をしながら、姉が言った。
「氷のうえに紅をぬるようで、色がのらないのよ」
納棺の時、妹の頬は人の皮膚でありながら、芯は固く冷たく手でさすっても、こちらの頬をよせても何の変化もなかった。魂が在るか無いか化学的な解明などそんなことはどちらでもよい。言葉や感情はその人を通して、その人の魂と交わしているのだなとつくづく思った。魂のない亡骸にいくら語り掛けても返信はない。
お棺に納めた生花は死者よりも暖かく柔らかかった。カトレア、欄、カーネーションと色とりどりの花だけ見ていると、まるで花嫁のブーケのようだ。童顔の妹を見て思わずつぶやいた。
「死神の花嫁になるにはまだ早すぎるよ」(立)
